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[インタビュー]Pタイルが彩る登録有形文化財「国際基督教大学 ディッフェンドルファー記念館 東棟」

国際基督教大学 ディッフェンドルファー記念館

1953年に日本で初めてのリベラルアーツ・カレッジとして開学した東京都三鷹市にある国際基督教大学(以下、ICU)。そのなかでも、学生および教員から愛され、キャンパスライフのよりどころとなっているのが「ディッフェンドルファー記念館 東棟」です。

竣工から60年以上の時を経て老朽化が進行し、解体か保存かの選択を迫られるなか、多くの議論を経て保存することが決定。内外装の改修工事が計画され、2021年秋に新しい姿へと生まれ変わりました。

新築時の姿を復元することを目指しながらも、エレベーターを設置するなど利便性の向上をめざした今回の改修工事で、ラウンジや各部屋、廊下の床を飾ったのは、新築時の床を継承するビニル床タイルの代名詞である、TAJIMAの「Pタイル」でした。

今回取材にご協力いただいたのは…
一粒社ヴォーリズ建築事務所

東京事務所副所長

佐々木 真さん

一粒社ヴォーリズ建築事務所

一粒社ヴォーリズ建築事務所

東京都千代田区神田駿河台2-1 近江兄弟社東京ビル4階

Facebook Instagram 創立者W.M.ヴォーリズの言葉

ディッフェンドルファー記念館 東棟とは

「ディッフェンドルファー記念館」は、ICUの設立に貢献したディッフェンドルファー博士の名を冠し、1958年に竣工されました。日本で最初期の学生会館として建てられ、いまにいたるまで学生たちに親しまれています。後年、現在の西棟が増築されたため、今回改修された当初からの建物は、現在は東棟と呼ばれています。

この東棟、広場を挟んで本館と対峙する北側のファサードは、芝生や樹木に呼応するように緩やかな曲面が描かれています。また、ラウンジ・諸室が面する南側はバルコニーや手摺で水平ラインを強調したデザイン。1950年代の建築物にもかかわらず、ヴォーリズがモダンな近代建築を取り入れた様子がさまざまな箇所からうかがえます。

Pタイル P-41
Pタイル P-41

ディッフェンドルファー記念館 東棟の歴史的意義

学内では、この歴史ある建造物について、建て替えか保存かで多くの議論が交わされました。
そうしたなか、近代建築保存の活動を行うdocomomo japanが、2016年に「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」にディッフェンドルファー記念館 東棟を選出。これをきっかけとした同館の学術的な評価の高まりを受け、在校生・卒業生の思い出を残し、心の拠り所を継承するために保存が決まりました。

このような活動が実をむすび、国の文化審議会は2022年11月にディッフェンドルファー記念館 東棟を国の登録有形文化財とするよう文部科学省へ答申しました。今後の活用しながらの保存がますます期待されます。

Pタイル P-41
Pタイル P-41
Pタイル P-41
Pタイル P-41
Pタイル P-41
Pタイル P-41

戦後、日本の床材の常識を変えた「プラスタイルP」

一方、戦前の近代建築では、石や木、陶磁器質のタイルが床材として採用されていました。
これらに比べて薄くて軽く、施工性に優れた樹脂製タイルが、日本で初めて製造されたのは1955年(昭和30年)のこと。GHQの要請により田島ルーフィング(当時の社名は田島応用加工)が発売した「プラスタイル」(3.2mm厚)に端を発します。

その後、技術革新が進み2mm厚の「プラスタイルP」が開発され、現在に至るまで「Pタイル」の名称で販売されています。ちなみに、この「Pタイル」という名称は、いまではビニル床タイルの総称としても親しまれています。

竣工当時のディッフェンドルファー記念館の新築図面に記載されていたのが、この「プラスタイルP」でした。
ヴォーリズは、発売間もないビニル床タイルを新しいキャンパスの床に選び、近代建築の幕開けに相応しい空間作りに挑んだのでした。

Pタイル P-1,13,41
Pタイル P-1 , 13 , 41

改修に向けて

今回の改修工事の設計を担ったのは、一粒社ヴォーリズ建築事務所。ICU創立時のキャンパス計画を立てたウィリアム・メレル・ヴォーリズが設立したヴォーリズ建築事務所を継承しています。

改修設計を担当された佐々木さんは次のように語ります。
「新築当時の床材が残っていたことは、歴史的建造物を改修するうえで大変助かりました。
講堂の天井や、ホワイエの床や、ラウンジの暖炉を取り囲む大理石、各階の廊下を飾るコペンハーゲンリブを施した木の壁面、バルコニーの玉砂利洗い出しなど随所にディテールへの強い思いが見て取れます。

おそらく、床のビニル床タイルの選定にあたっても、相当こだわったことでしょう。
改修調査では、くすんだ色の床材に、補修跡が混在し、新築時の状況が読みづらい状況でしたが、施工が進むにつれ、壁・天井とのバランスを見ていくなかで、約60年前にヴォーリズが描いた空間がわかるような気持ちになりました。

オリジナルに戻すことが前提ですが、現在の利用に則した設備がないと、活用されなくなります。近代建築の保存が抱える『使いながら伝える』という課題に対して、ひとつの答えを提供できたのではないかと思います。」

国際基督教大学 ディッフェンドルファー記念館 東棟

東京都三鷹市大沢 3-10-2
https://www.icu.ac.jp/

国際基督教大学 ディッフェンドルファー記念館
- 弊社担当より - 田島ルーフィング 綿引 友彦、岩崎 仁美

一粒社ヴォーリズ建築事務所の佐々木様より、改修の依頼を受けて現地調査を行ったのがコロナ禍が猛威を振るいはじめた2020年の初夏でした。本来ならば、学生で賑わうキャンパスに人影はなく、閑散としたなかでの調査となりました。

 

長い年月を経た床材のくすみが空間に馴染んでいるのを見ると、果たして新調する床が空間に合うのかどうか判断がつきませんでした。それでも、壁や天井とともに、新しく貼られたPタイルを見ると、新築時にヴォーリズが目指した近代的な空間を感じ取ることができました。

 

いままでこの建物を愛していた方々だけでなく、これから訪れる新入生にとっても思い出の場となるよう願っています。

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