私たちが接する水には、日常生活を営む上で必要な生活水と、雨や地下水などの自然水があります。生活水は、台所・厨房・トイレ・浴室など、限られた空間で使用し排水しますが、自然水は私たちの意思に関係無く存在し、人為的な防御がないと建物内部に浸入し、雨漏りを引き起こすだけではなく、貴重な財産にも影響を与えかねません。
このような、建物への意図しない自然水の浸入水を防ぐため、屋上やバルコニーに施工される不透水性の連続皮膜が「防水層」です。
なぜ、雨漏りは起こるのでしょうか?それには3つの要因があります。
水があること
水の通り道があること
水に力が加わること
水が存在し、水の通り道があり、水に力が加わることで雨漏りが発生します。雨漏りを防ぐには、これらの要素を分断することが必要です。水の存在を無くすことはできるでしょうか?建物が屋外に建てられる限り、雨の存在を無くすのは困難です。それでは、水の通り道を無くすことはできるでしょうか?建物は数多くの部材で構成されており、規模が大きいことから、工場内で制作したり、継ぎ目のない構造体にすることは困難です。
また、一見継ぎ目のないように見えるコンクリートも、打設の時間差により生じるコールドジョイントや、地震・強風・熱による膨張や収縮といった自然界の影響を受け続けることで生じるクラックなどにより、完全に透水性能が永続するとは言い切れません。隙間の無い建築=水の通り道が無い建築を造ることは難しいのです。
勾配屋根イメージ
陸屋根イメージ
建築の現場では、多様な防水材料が使用されています。そのなかでも屋上やバルコニーなどで最も多く採用されているのが、アスファルト防水、シート防水、塗膜防水といったメンブレン防水(membrane:膜)です。
メンブレン防水の他には、コンクリート表面の微細な空隙に浸透して水密性を高めるケイ酸質系の塗布防水、ステンレスシートを現場にて溶接するステンレスシート防水、目地などに充填して止水効果を得るシーリング防水、工場で成型されたパーツを、現場で組み立てて防水空間を形成するユニットバスなどの乾式工法、瓦やスレートといった屋根材の下に敷きこまれるアスファルトルーフィングなどがあります。
メンブレン防水の特長は、材料形態による性能の違いをみるとわかりやすく理解できます。塩化ビニル樹脂系や加硫ゴム系のシート防水は、工場で成形された防水材料を現場で貼り合わせるため定型材料と呼ばれます。ウレタンゴム系やゴムアスファルト系といった液状の塗膜防水は、現場で施工されて初めて形が定まるため、不定形材料と呼ばれます。定形材料は、厚みが一定である反面、シート相互の接合部を確実に処理する必要があります。逆に、不定形材料は液状ですので継目無く仕上がりますが、下地の凹凸により皮膜の厚さが不均一になりやすいという傾向があります。
もっとも歴史のあるアスファルト防水熱工法は、定形材料のルーフィングを、260℃程度で溶融した液状のアスファルトで貼り付けて施工する、定形・不定形の複合型防水工法の原型といえます。塗膜防水では、この両者の特長を取り入れ、補強布を挿入したり通気緩衝シートと組み合わせた工法が開発されています。
■材料形態ごとの断面図(イメージ)
定形材料断面図
不定形材料断面図
アスファルト防水断面図
(定形+不定形)
定形・不定形の複合型であるアスファルト防水には、多くのメリットがあります。
旧約聖書では、ノアの方舟やバベルの塔の建造にも使用されたとされるアスファルト。
熱すると液状になり、冷めると個体となる、とても優れた接着剤であり防水材です。
シート(ルーフィング)同士の隙間を液状塗膜(アスファルト)が埋めることで、水の通り道が塞がれます。
水路を埋める機能が単層(1枚)ではなく複層となるため、さらなる安心感が得られます。
アスファルト防水は “三本の矢”に例えることができます。1本1本の矢は他のものに比べ特別に優れているわけではありませんが、3本揃うとその相乗効果で大きな力を発揮します。これこそが、アスファルト防水(積層工法)の強みです。
「安全人間工学」におけるエラーモードの観点から、仮に単層ごとのエラーモードによる不具合発生率0.01(1%)と仮定すると、2層を重ねた防水層の不具合発生率は、おおよそ0.01×0.01=0.0001(0.01%)となります。 同様に3層重ねた場合は0.000001(0.0001%)となり、極めて信頼性が高くなる計算です。
フェーズ | 意識のモード | エラー発生率 |
Ⅰ | 意識ぼけ | 0.1以上 |
Ⅱ | 正常、リラックスした状態 | 0.01~0.00001 |
Ⅲ | 正常、明晰な状態 | 0.000001以下 |
Ⅳ | 興奮状態 | 0.1以上 |
防水仕様 | 不具合発生率 (0.01と仮定した場合) |
|
単層防水 | 0.01= | 0.01 |
2層防水 | 0.01×0.01= | 0.00001 |
3層防水 | 0.01×0.01×0.01= | 0.000001 |
「安全人間工学」 中央労働災害防止協会より
防水層の劣化は熱・紫外線の他、飛来物による損傷なども要因となります。
積層を基本とするアスファルト防水の厚みは防水機能上、重要な要素となります。
●塩ビシート防水機械的固定工法
●アスファルト防水工法
厚みがあることで優位性を持つアスファルト防水は、保護層を設けることでさらに耐久性が向上します。
押えコンクリートで紫外線や飛来物から保護
断熱材で熱劣化から保護
厚いアスファルト防水ならではの
高い水密性・信頼性
当社で実施してきたおよそ1,300件の経年防水層の分析試験結果から、アスファルト防水の劣化は表層側(上)と下地側(下)の両面から進行していくことが解明されています。このことから、積層して厚みをもった防水層の中心部は、健全に保たれる可能性が高くなることがわかります。
●露出アスファルト防水の劣化イメージ
28年経過した保護アスファルト防水の切り取り分析サンプルの表面写真(左:スラブ側 右:表層側)
アスファルト防水は、積層することで安心の防水層を形成する工法です。そのため各種ルーフィングや液状アスファルトの組合せを変えたり、積層数を増やしたりすることで、耐用年数を想定した防水仕様をカスタマイズすることが可能です。
保護コンクリート仕上げ 断熱
ストライプ工法(冷熱併用工法)
適正勾配:1/100~1/50
重量目安(断熱60mm):15kg/m²
基本耐用年数:80年
住宅瑕疵担保履行法対応仕様
平面部 APX-080R |
立上り APV-080 |
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使用材料名 | (㎏/m²) | 使用材料名 | (㎏/m²) | |
1 | 水性プライマーAS | 0.2 | 水性プライマーAS | 0.2 |
2 | 強力ストライプZ コーナー際:強力ライズ※ |
ー |
強力ライズ ガムタイトクリーン・流し貼り |
1.2 |
3 | 強力ライズ ガムタイトクリーン・流し貼り |
1.2 |
強力ライズ ガムタイトクリーン・流し貼り |
1.2 |
4 | 強力ライズ ガムタイトクリーン・流し貼り |
1.2 |
強力ライズ ガムタイトクリーン・流し貼り |
1.2 |
5 | 強力ライズF ガムタイトクリーン・流し貼り |
1.2 |
強力ライズF ガムタイトクリーン・流し貼り |
1.2 |
6 | RBボードまたはスタイロ フォームRB-GK-Ⅱ ガムタイトクリーン・点貼り |
ー | ー | |
7 | 絶縁クロス1000 ガムタイトクリーン・点貼り |
ー | ー |
※平面部の強力ストライプZはコーナー際より500mm程度控えて貼り、代わりに「強力ライズ」をガムタイトクリーン1.2kg/m²で流し貼りします。
水性プライマーASアスファルト系水性プライマー。 17kg/缶 |
強力ライズハイグレードクラスの改質アスファルトルーフィング。表層は鉱物質粉粒仕上げ。 1.7mm厚 |
強力ストライプZ部分接着用改質アスファルトルーフィング。下地からの水蒸気を通気・拡散します。 1.4mm厚(厚みには粘着層含まず) |
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強力ライズFハイグレードクラスの改質アスファルトルーフィング。表層はフィルム仕上げ。 1.8mm厚 |
ガムタイトクリーン広い温度範囲で安定した性能を発揮する防水工事用改質アスファルト。溶融釜に直接投入できるフィルム包装。 10kg/袋 |
RBボード/スタイロフォームRB-GK-II完全ノンフロンタイプの硬質ポリスチレンフォーム断熱材。 厚さ:25,30,35,40,50,60mm |
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絶縁クロス1000ポリプロピレンのフラットヤーンクロスを使用した絶縁材。 1m×100m巻 |
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●季節や立地条件によって、水性プライマーASの代わりにアスファルトプライマーかアスファルトプライマーSSを用いることもあります。
●立上り隅には必ずコーナー緩衝材RBキャント1500を使用します。(価格別途)
●貼仕舞はGCラインで処理します。
●ライナーコーピングsなど雨仕舞材の価格は別途となります。
●仕様および材料詳細については予告なく変更する場合がございます。予めご了承ください。
●各材料の規格(寸法・重量等)は代表値であり、実際のものとは異なる場合があります。
防水層の分類は、アスファルト防水、改質アスファルトシート防水、シート防水、塗膜防水といった、原料別・形態別の分類の他に、施工方法の違いや、下地への固定方法、仕上げ材の有無、断熱材との組合せとにより、多くの仕様・工法に分かれます。
防水層の耐久性能向上や、屋上を積極的に利用する場合には、防水層上に保護仕上げ層を設けます。保護仕上げ層には、コンクリートやブロック、アスファルトコンクリートなどが用いられます。
それに対して、防水層がそのまま仕上げ材になったり、保護塗料などを塗布して仕上げたりするのが露出仕様です。屋根が軽くなるだけではなく、改修工事を行いやすくなるといったメリットがあります。
保護仕様
露出仕様
防⽔材そのものを屋上全⾯に貼り付ける仕様を密着⼯法といい、接着剤で防⽔層を全⾯に接着する仕様を接着⼯法といいます。それに対して、部分的に接着させる仕様を絶縁⼯法といいます。密着⼯法と接着⼯法は、下地と防⽔層の間に隙間が無いため、漏⽔時に防⽔層の不具合箇所を推定しやすいというメリットがあります。
露出防⽔では、下地の湿気によりフクレが⽣じやすくなります。絶縁⼯法は、フクレ防⽌や下地の挙動に対して有効ですが、強⾵地域の露出防⽔で採⽤する場合には、耐⾵圧性能の検証が必要となります。
建物に断熱材を設置する場合、構造躯体の外部に設置するやり⽅(「外断熱」と呼ばれる)と、内側に設置するやり⽅(「内断熱」と呼ばれる)があります。外断熱は、外気温の変化から構造体を守ることができ、内断熱は、冷暖房の⽴上りが早いという特徴があります。
外断熱の場合、防⽔層と断熱材の位置関係には、下地側に断熱材を設置してから防⽔層を施⼯すると、防⽔層を施⼯した後に断熱材を設置するUSD(Up Side Down)があり、前者は露出断熱⼯法で多く採⽤され、後者は保護断熱⼯法で主に採⽤されています。
■材料形態ごとの断面図
外断熱イメージ
内断熱イメージ