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昭和のタイルから紐解く「レトロ」なデザイン[TAJIMAの床材ギャラリー|昭和編①]

2025年は昭和元年から数えて昭和100年目にあたるそうです。「昭和レトロブーム」が流行して久しいですが、空間づくりにおいても、築年数の古い戸建住宅・マンションのリノベーションや、バブルの面影が残る老舗ホテルのリニューアル、アンティーク家具が目を引くノスタルジックな喫茶店の設計など、レトロな要素を採り入れたプロジェクトが注目を集めています。
「昭和レトロをコンセプトにデザインしてほしい」施主からこのような依頼を受けた設計士・デザイナーの方も少なくないのではないでしょうか。
そこで今回から数回にわたって、昭和に発売されたTAJIMAの床材を当時の見本帳・サンプルとともにご紹介。第1回は1950〜60年に発売されたタイルのなかから4種類をピックアップし、デザインの軌跡をたどります。本記事が「レトロ」について考えるためのヒントのひとつになれば幸いです。
“100万人の歩行に耐える床材” TAJIMAの原点「アスファルトタイル」

1919年に建築防水材メーカーとして創業したTAJIMAは、戦後1949年、アメリカ軍からの要請で床材の開発に着手します。その翌年の1950年、防水材の製造で培ったアスファルト技術を駆使して開発されたのが「アスファルトタイル」 でした。その評判が知れ渡り、アメリカ軍だけでなく日本の民間企業からも注文が入るようになっていきます。
そうしたなか、1951 年に東京・日本橋三越本店の正面階段と大食堂前にアスファルトタイルが全面施工されます。その当時、日本橋三越には1ヵ月に約100万人が来場したことから、アスファルトタイルは“100万人の歩行に耐える床材”と呼ばれ、世間の注目を集めました。
またこのころ、色がもたらす心理的な効果について「色彩調節(カラーコンディショニング)」という理論が注目され始めていました。以前から色彩に関心を寄せていたTAJIMAはこの理論に着目し、床材に適した色彩を研究。カラーコンディショニング理論を応用した初めての床材として暗色3色、明色13色のアスファルトタイルを発売し、好評を博します。
今でこそ空間づくりにおいて配色を意識することは当たり前ですが、当時はこのような考えはまだ浸透しておらず、画期的なことでした。


日本初の塩ビタイル TAJIMAの代名詞「Pタイル」

アスファルトタイルの開発、製造を機に床材事業に参入したTAJIMAでしたが、当初は高価な原料であった塩化ビニル樹脂が、化学メーカーでの生産が活発になり容易に調達できるようになってきたことから、1953年に国内で初めて塩化ビニル樹脂を主原料としたプラスチックタイルを発売します。先ほどのカラーコンディショニング理論を取り入れた8色のこの製品は、色彩や機能の面でもこれまでのものよりも優れていたことから「プラスタイル」と命名されました。
1955年にはプラスタイルにP1~P12の色番号を付けた「プラスタイルP」通称「Pタイル」を発売します。宣伝にあたっては当時としては斬新だった、女性宣伝員による訪問販売やDMの併用、ラジオ・テレビを活用した宣伝、週刊誌の1ページ広告などの手法を採用。その結果、爆発的な売り上げを記録します。
こうしてPタイルは、プラスチックタイルの総称としてその名を広く知られる、TAJIMAの代名詞となったのです。


100万枚が床を飾った! 改良を重ねて誕生した「ソフトンタイル」

アスファルトタイル、Pタイルが発売されて以来、TAJIMAは順調に売り上げを伸ばしていましたが、当時の履物の事情などもあり、どちらのタイルも滑りやすさが問題視されるようになりました。その課題を解決するために改良を重ねて開発されたのが「ソフトタイル」です。ソフトタイルはPタイルを滑りにくい仕様にしたもので、1958年に12色展開で発売されました。
1960年、このソフトタイルの配合をもとに「ソフトンタイル」を開発。ソフトンタイルは塩ビタイルとしてはより高品質で、斬新な色彩と模様が特徴でした。1968 年には近代建築の粋を結集した日本初の超高層ビル「霞が関ビル」の全階に採用され、その数はなんと100万枚。PタイルやMタイル(1967年発売、色柄を刷新してPタイルからイメージチェンジを図ったタイル)を含めると、総数は120万枚にも及んだといいます。
この快挙はまさにTAJIMAが床材のトップメーカーとして認められた証でもありました。


また、これら塩ビタイル以外の製品としては“ラバ系床材のエリート”と銘打った「ラバスター」が1963年に発売されています。これは合成ゴムを主原料とした意匠性の高いタイルで、ドイツから導入された設備によって生産されました。
愛されて70年!どこか懐かしくも、つねに新しいPタイル

いかがでしょうか。今回は1950〜60年に発売されたTAJIMAのタイルから4種類をご紹介しました。
なかでも1953年に発売された「Pタイル」は、2025年の現在も販売されているロングセラー商品です。初登場時から変わっていないようにも見えますが、昭和、平成、令和と時代に合わせて、色柄のブラッシュアップを重ねてきました。「変わらない魅力」と「時代に即した使いやすさ」このふたつを両立する絶妙なバランスが、70年以上愛される理由のひとつといえるでしょう。
どこか懐かしくも、つねに新しいPタイル。ぜひ一度取り入れてみてはいかがでしょうか。
次回は1960年代後半〜70年代前半に発売されたタイルを中心にご紹介します。こちらもぜひ参考にしてみてください。